婚約破棄から始まる恋2~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
チェント男爵令息side①
「旦那様がお見えになっていますよ」
サントの出迎えと同時に知らされた父の訪問。
俺は着替えをすませるとダイニングルームへと足を運んだ。
「父上、久しぶりですね」
ノックをして部屋に入ると壁に飾ってあった絵画を眺めていた父に声をかける。
「ああ。今日はお邪魔してるよ」
自分の邸でもあるのに、他人行儀な言い方に苦笑いしてしまう。父にとってはここはまだ自分にそぐわない邸なのだろう。
「これを見ていたのですね」
父の隣に来ると俺も一緒に絵画を眺める。
川岸に沿うように植えられた樹木には薄ピンクの花が咲き誇っている。花の名前は桜というらしい。この国では見かけない珍しい花だ。遠い先祖の故郷の景色を描いたもの。形見として大事にしている。