婚約破棄から始まる恋2~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
いよいよ扉が開きました。これが最後かもしれない。
深呼吸をして、私は部屋の中に入っていきました。
挨拶をと身構えていた私の視界が陰ったと思ったら、シトラスの香りがふわっと鼻を掠めて、温かい体温に包まれました。
「あ、あの……レイ様?」
まだ二、三歩です。扉が閉まるのも待たずに駆け寄ってきた来たレイ様に抱きしめられていました。ただならぬ様子に困惑している私。
「挨拶を……」
「……いらない。もうしばらく、このままで」
くぐもった声が聞こえてきて、抱きしめていた腕に少しだけ力が込められたように感じました。言われる通り、もうしばらく、このままで。
レイ様の腕の中。
心地よさに慣れてしまった自分がいて、会えなくなったらどんな気持ちになるのかしら。当たり前だったものが当たり前でなくなる。悲しいのか、寂しいのか、どんな思いでレイ様の元を離れたらいいのか。
その時が来たら、笑顔で……せめて、笑顔で。