婚約破棄から始まる恋2~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

「こうしていないと逃げられそうだから。話があると言っていたよね。覚えてる?」

 あの時は手をしっかりと握られていたわ。逃げないようにって。
 
「はい」

 鼓膜を震わす声が心の奥を刺激して切なく疼きます。

「逃げませんよ。大丈夫です。ですから……」

 離してください。とは言えませんでした。

 レイ様の温もりが大好きだから。レイ様の腕の中はこんなにも心地よいものだと知っているから。今だけだからと狡い気持ちを隠して。

「ローラの逃げませんは信用できない」

「それは……」

 逃げたのは一度だけで、この前は逃げようとは思ったけれど、我慢したわ。

「ふっ」

 レイ様が微かに吹き出したのがわかりました。
 耳元で息がかかるのは心臓に悪いわ。こそばゆさに身を捩ってしまいます。



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