婚約破棄から始まる恋2~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
懐かしい。
あたしも男爵家の養女になる前はたまに来ていた。
母子の暮らしでお金に余裕があったわけではないから、年に数えるほどだったけど。
母親だけの収入では生きていくだけで精一杯。あたしも店の雑用をしたりして働いてはいたけれど、子供の給金なんて雀の涙。大した収入ではなかった。それでも働かないよりはましだった。
子供心に両親がいれば、人並みに生活できたかもしれないのに。屋台の食べ物を頬張る子供達を眺めながら思っていたものだった。
「何か食べるか?」
昔を懐かしんでいるとエドガーの声がした。
食べるか? って声に素早く反応したのはあたしのお腹。
ぐうーという音に大きく目を見開いたエドガー。あたしのお腹を見つめて笑い出した。
もう、恥ずかしい。
美味しいものをお腹いっぱい食べたいからと朝食を控え目にしたのが裏目に出てしまったわ。こんなタイミングでお腹が鳴るなんて女の子として恥ずかしすぎる。
「エドガー、笑いすぎ」
クククッと声を潜めて笑うエドガーを恨めしく睨む。ひとしきり笑った後
「まあ、まあ。正直でよろしい。今日は満足いくまでいっぱい食べような。俺もお腹すいてきた。さっ、行こう」