婚約破棄から始まる恋2~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています
チェント男爵令息side③
「急がなくていいからな。忘れ物がないかよく確かめてくれ」
忙しそうに馬車と新邸を往復する使用人達に声をかけた。その間にも荷物が馬車の中に運び込まれていく。
「いよいよ、お別れですね」
「ああ。ここに住むことは終ぞなかったな」
父が新邸の外観を見上げながらポツリと呟いた。
若木のシンボルツリーの枝がそよそよと風に靡いていた。
これから新しい歴史を刻むはずだった新邸に今日別れを告げる。男爵位を返上して平民となったからだ。
リリアの件が発端であることは間違いないが、むしろ決断する機会をくれてよかったと思う。
俺達はこれからフィンディス国へと向かう。
最終目的地はジュラン皇国。長年の夢を現実することができるのだ。