39回目の3月9日
私とリトが大喧嘩をしたのは、今年の2月6日、タイムリープが始まる前日のことだった。

「ハル。俺、卒業したら《桜誉(おうよ)自衛官》になるんだ」

「……なにそれ?」

リトの部屋でくつろいでいた私が聞き返すと、いつも通りのへらっとした笑顔を浮かべながら告げた。


「花の『桜』に、名誉の『誉』で、『おうよ』って書くんだ。
ほら、桜が散る景色って、すごく綺麗じゃん? 
『美しく散ることは、すごく誉れ高いことなんだ』って、そんな名前が付けられたんだって。
……美化するな、って批判もあるけど」

「だから、それが何なの? 普通の自衛官とは違うの?」

「桜誉自衛官は────主に海外の戦地に行って、戦闘支援をするのが仕事なんだ」


棒状のチョコ菓子を掴んだ私の手が止まった。


「……なにそれ。戦場で戦うってこと? リトが?」

「うん。ハルだって知ってるだろ?
今の時代にだって、世界のいろんなところで戦争が起きて、たくさんの人が死んでるってこと」

普段流し見している朝のニュースで聞いた、いくつかの国名を思い浮かべながら、私は頷いた。


「俺はさ……そういうところで、何の罪もないのに辛い目に遭う人たちのこと、助けたいんだ。
数年前、試験的に《桜誉自衛官》の導入が始まったってニュースを見た時から、ずっと気になってたんだ。

だから、俺……春からは、ハルと一緒にはいられない」

「馬鹿じゃないの!!!!」

私の怒鳴り声が、部屋中に反響した。


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