39回目の3月9日
リトはこの1ヶ月、何度も私に言った。


『思うんだよ。他の国で理由なく殺されそうになっているのが、もしハルだったらって。

俺はハルが大好きだから、そんなの絶対許せない。なんとしても止めなきゃいけないって思う。

俺にとって大事なハルを守るみたいに、おれは、《誰か》にとって大事な《誰か》を守りたい』


『私が大事なら、海外になんて行かずに私のそばにいてよ』って、そう言われるたびに思ったし、実際に口に出したこともある。

『ごめん。でも、ハルは強いから。
俺がそばにいなくても、きっと生きていけるから』


強くなんかない。

強くないから……リトが死んでしまうかもしれない未来が怖いから、39回もタイムリープする羽目になったっていうのに。

だけど。

ひらひらと舞う桜の花びらを背に、私は言う。

「……私はリトが好きだから、アンタの夢も受け入れる。
本当は嫌だし、今でも止められるなら速攻で止めてほしいけど……受け入れる」

「……ありがとう、ハル」


リトは、ふわふわとした笑顔を浮かべた。


「……でも、死んだら絶対に許さないから。
万が一リトに何かあったら、何百回何千回、何万回タイムリープしてでも、私はそんな未来変えてやるんだから!」


きょとんと目を開いた後、リトはぷっ、と吹き出した。

「好きだねぇ、タイムリープ」


実際に私がタイムリープしているなんて、夢にも思っていないんだろう。
呑気に笑うリトに最初は腹が立ったが、だんだん可笑しくなってきて、私は笑ってしまった。


「大好きだよ、リト」

「俺も、ハルが大好きだよ。
遠くに行っても、ずっと」


39回目の3月9日。

私は桜の木の下で、リトとふたり、笑っていた。











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