囚われの令嬢と仮面の男
 十六年前、突然いなくなったママの存在。遠い昔を懸命に思い出し、私は呼吸を荒くした。

 大人が通れるほどの生垣の切れ込み。裏庭の地面に落ちていた紫水晶のブローチ。その近くに作ってもらった私専用の花壇。

 途端に喉の奥がギュッと詰まり、嫌な考えが頭に浮かんだ。

 ーー『もしも当主がそのような危篤に陥れば、共に裏庭の花壇を掘るよう頼んでいたんだけどな』

 エイブラムから聞いた言葉が脳裏にささやき、ハッと息をのんだ。

「姉さん? 大丈夫ですか?」

 顔色が悪いですよ、とアレックスが続け、私は知らずに俯けていた顔を上げた。

「もう少し探して見つからなければ……先に裏庭の花壇を掘るわよ、アレックス」

 ***
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