囚われの令嬢と仮面の男
 いたってシンプルで無表情の白い仮面をつけている。出で立ちは平民のようだが、フードつきの真っ黒いポンチョとその仮面のせいで、不気味さが際立っている。

「これは。どういうこと?」

 慎重に言葉をえらんで話しかけた。さっき聞いた声から察するに、相手は男だ。

「覚えていないのか?」

 仮面のせいで声はくぐもって聞こえた。

 じゃっかん気だるさの残る頭を少しだけ浮かしながら、私は仮面にあいた男の目を見つめた。

 深く青みがかった瞳は暗い深海を思わせた。仮面の男は私を横たえたベッドわきに腰をおろした。

「誘拐、されたの? 私?」

「そうだ」

 声は無機質に響いた。

 どうして、こんなことになったの……?

 何がどうなって今に至るのか、私は眉間にシワを寄せ、懸命に思い出そうとする。

 仮面の男は何も言わず、私が次に発する言葉を待っているかのようだ。少しのあいだ静寂に包まれる。

 私はたしか……。マーサと一緒にいて、花壇の花を眺めていたはず。屋敷の裏庭でお茶をしていた。

 そこにこの男が現れた……?

 仮面の男を見つめ、背中に嫌な汗をかいた。男はさっきから同じ体勢で座ったまま、ピクリとも動かない。
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