囚われの令嬢と仮面の男
2.軟禁と抵抗
「あなた……うちに来ている肉屋を装って忍び込んだのね?」
呼び戻した記憶から、私は仮面の男の行動を詳細に思い出していた。
男は肉屋のふりをして屋敷の外側を周り、通用口の辺りで待機していたのだろう。
肉を運ぶための手押し車かなにかに入れて連れ去られたのかもしれない。
「記憶に問題はないようだな、安心したよ」
フッと笑う気配がして、急に男が立ち上がる。上から見下ろされているのが恐ろしくて、私は居住まいを正した。
男を慎重に見張りながら、そうっと上体を起こす。ベッドはちょうど壁に寄せてあったので、少しだけ後ずさってから背中でもたれた。
寝転んだ状態の身体をさらして、男に変な気を起こされたら困ると思った。
何せ、仮面を着けているせいで表情が分からないのだ。無表情なのか笑っているのか、私に何かをしようと企んでいるのか。
急に襲われるかもしれないと恐怖し、私は何でもいいから話をしようと考えた。
「あっ、あなた。誘拐する人材を間違えたわね?」
「どうしてそう思う?」
「だって。あの家では私なんかより、妹や弟のほうが……ずっと優秀だから」
男は少しだけ、首を傾げた。