囚われの令嬢と仮面の男
3.共犯者の疑い
再び一人ぼっちになった部屋で、私はあの男の言葉を頭の中で反芻していた。
ーー『これは俺の意思でもあるが、ヒトに頼まれてしたことだ』
頼まれて、とはどういうことだろう。私をミューレン家から誘拐したい別の人物がいて、仮面の男は実行犯、そして私をただ置いておくだけの見張り役だった、ということだろうか。
だとしたら、この誘拐を企てた別の人物がお父様と交渉している、ということ?
ーー『あの家と交渉などするつもりはない』
さっき聞いた言葉をまた思い出し、それも違うかもしれないと気づかされる。
ふいに、ぐぅぅと低い音が鳴った。
ベッドに座りながらあれこれ考えているが、それが私の腹の虫だと知り、呆れて吐息がもれた。
やはりりんごを食べただけでは空腹はごまかされなかったか。
仕方なく立ち上がり、男が座っていた椅子とテーブルに近づいた。
ミルク瓶と丸いパンを手前に寄せて椅子に座る。ひと口分のパンをちぎりながら口に運び、食べ物のほかに置き去りにされた一冊の本に目を留めた。
鮮やかな青色の表紙をした分厚い本だ。タイトルに記載された文字を読み、手に取って中のページをパラパラとめくる。