囚われの令嬢と仮面の男
 男の口調はいたって真面目だが、なんのことかさっぱりだ。「意味がわからない」と続けた。

 この誘拐が私にとって意味があるだなんて……まるで"私のために"そうしているみたい。

 そう考えたところで、おや、と首を捻った。

 ちょっと待って……。

「もしかしてあなた、私と顔見知りなの?」

「っな、」

 ここにきて、初めて男に動揺が見えた。

「うそ、当たり? なんとなくそうじゃないかと思ってたの。じゃなきゃ、人質にこんな甘い対応でいるくせに、そんな悪趣味な仮面なんてつけないもの!」

 男が「え、え、」と反応し、あからさまに狼狽えていた。

「じゃあこうしましょ。あなたの思惑も、あなたに誘拐を依頼した共犯者も気になるけれど、とりあえずは聞かずにここにいる。私が逃げない代わりに、あなたの顔を見せて? 私もその方がスッキリするから」

 我ながら名案だと思ってポンと手をたたく。が、男は「馬鹿を言うな」と不満をもらし、取り合ってもくれない。

「なによ、ケチ」

 私に敵意がないのなら、仮面なんて必要ないと思うのに……。

 男との会話がなくなるとまた暇になった。
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