囚われの令嬢と仮面の男
6.誘拐の目的
仮面の男はあろうことか、私が憧れを抱いた男爵家の彼だった。
男が誰であるかはわかったけれど、"あの人"との接点が全く思い当たらない。共犯者と睨んだ相手を、また間違えているのかもしれない。
いずれにせよ、男は予想どおり顔見知りではあった。会ったのはたった一度きりだ。
彼、エイブラムは、観念したように私を見つめ、「やられたな」と呟いた。手元に視線を下げて彼がひとつ咳払いをする。
エイブラムは投げ出して座っていた足を畳んで膝をついた。背筋を伸ばし、居住まいを正している。
「これは大変失礼いたしました。ご承知おきくださり、大変嬉しく存じます。麗しきレディ・マリーン」
綺麗な微笑を浮かべながら胸に手を当ててお辞儀する彼を見て、呆気に取られた。
「それは……あなたのキャラなの?」
「なにをおっしゃいますか、これまで伯爵令嬢に対して無作法なふるまいでいたこと、深くお詫びし…」
「そんなことはどうでもいいの! 謝るならまず私を縛ったことと、この変な仮面をつけていたことでしょう?!」
彼のご丁寧な物言いにかぶせて言うと、私の勢いに圧倒されたのか、彼はいくらかたじろいだ。