囚われの令嬢と仮面の男
「乙女心をもてあそぶなんて、ひどい人。あとで来たらとっちめてやるんだから」

 そうひとりごちるものの、頬には熱がこもっていた。

 *

 懐中時計を首からぶら下げたまま、夕方の六時を待った。

 エイブラムが持ってきてくれた本の続きを読んで待てば良かったのだが、頭の中が彼のことでいっぱいで、内容が入りそうになかった。だから読書はやめにした。

 ベッドの上に座り込んだまま、出入口の扉を数分おきに見つめ、ため息をついた。

 時計の長針がちょうど真上をさしたのに、彼は現れない。時間に正確な人でいつも遅れたりはしなかったのに。

 どうしたんだろう……?

 モヤモヤした。顔を見られたことで来なくなったりすること、ある?

 でも六時に来るって言ってたし……。

 みぞおちの辺りで響く時計の秒針が鳴れば鳴るほど、不安になった。

 手で持ち上げて文字盤を見ると、すでに十分が過ぎていた。

 もしかして本当に来ない?

 焦ってベッドから降りようとしたとき、扉の向こうでガチャガチャ、と金属音がした。

「すまない、遅くなった」
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