囚われの令嬢と仮面の男
 紙袋をひとつ抱えたエイブラムが入ってきて、胸のすく思いがした。彼の存在を目でとらえ、自分でもわかりやすいほど安堵していた。

 あの仮面がないだけで、エイブラムは黒いフードをかぶっている。

「腹が減っただろう、すぐに支度をする」

 テーブルに紙袋を置き、エイブラムが中から薄いパンやソーセージを取り出した。戸棚をあけ、木製の皿とコップ、カトラリーを並べている。

「まだいいわ。夕食(それ)よりも話をして」

「……なら、準備をしながら話す。途中でキミのお腹が鳴るかもしれないからな」

「っな」

 その物言いにカチンときた。

「デリカシーのない人ね! レディに向かってその言い方はどうなのかしら!」

 彼に近づいて非難した。腕を組んだままで睨みあげると、どういうわけか彼が口元を綻ばせた。優しい笑みを見て、ポッと胸が熱くなる。

「な、なによ?」

「マリーンが……そうやって感情を見せてくれると安心する」

 え……。

 いまいち意味を理解できず、言葉が出なかった。

「あの屋敷では、暗い顔で俯いていることが多いと聞いていたからな」
< 79 / 165 >

この作品をシェア

pagetop