囚われの令嬢と仮面の男
「……それは。私の侍女の……マーサから聞いたの?」

 夕食の盛り付けが済んだのか、彼が皿から顔を上げる。まともに目が合った。

「あなたに誘拐を依頼したの、彼女なんでしょう? マーサ・アリソン」

 エイブラムはなにも言わず、ミルク瓶を傾けてコップに注いでいたが、目は肯定していた。そうだ、と言っている。

「当たりでしょう? マーサは私の洋服のサイズや趣味嗜好について完璧に把握しているもの。それに……あなたはイブとの思い出を知っているような口ぶりだった。あの屋敷でイブのことを話したのはマーサだけ。彼女しかありえないわ」

「半分当たりで半分はずれ、と言ったところかな。俺に誘拐を頼んだのは彼女で間違いない」

 やっぱり、と思う反面、なにか切なさのようなものが込み上げた。キュッと心臓をつままれたように痛くなる。

「じゃあ……なにがはずれなの?」

 平然と痛みを無視して、わざと強がってみせた。

「キミのその幼なじみについての話は、全く聞いていない」

「………うそ」

「嘘じゃない」

 じゃあ。私の思い違い?

 疑心暗鬼のあまり、深読みをしすぎたということだろうか。
< 80 / 165 >

この作品をシェア

pagetop