囚われの令嬢と仮面の男
7.心を通わせる
朝に聞いたエイブラムの告白を、信じたいと思い始めていた。
彼が幼いころに心を通わせたイブなら、私を陥れたりはしない。会うのは十六年ぶりで、お互いに性格や考え方が変わったかもしれないけれど、イブなら信じられる。信じたいと思った。
すぐにでも触れ合える距離に彼の体温を感じて、今こうしてベッドの縁に並んで座っているのが急に恥ずかしくなった。
ーー『それじゃあエイブラムさんは。以前から私のことが好きだったってこと?』
『……そうだよ』
この耳で一度聞いた言葉を思い出し、顔の中心から熱が生まれる。私は頬を熱くし、俯いた。
彼の左手はまた革手袋をしていて、金魚のあざが見えなくなっていた。
「マリーンは……今でもまだ、あの屋敷に帰りたいか?」
「……え」
顔を上げると、エイブラムの視線と重なった。私の赤面に気付いたはずだが、つい今しがたマーサのことを思って泣いたあとなので、彼は切なそうに眉を寄せるだけだった。
「それは……」
つい歯切れの悪い返事をしてしまう。
仮面の男がエイブラムだと知った今朝の時点でなら、迷いつつも「帰りたい」と言ったに違いない。