囚われの令嬢と仮面の男
「前から聞きたかったんだけど、この食事はどこから調達しているの?」

 ひとくち分を飲み込み、手で口元を押さえた。

「もちろん、サミュエル家の屋敷からだよ」

「……そうなのね。じゃあ私の洋服や本は? マーサが用意したのよね?」

「ああそうだ。服も寝巻きも肌着も、彼女が全て見繕ってくれている。俺は渡された物をそのまま運ぶだけだから、キミの衣類に関しては一切見ていない」

「……そう」

 以前、私が変態さんと呼んだことをいまだに気にしているようで、口元がいくらかにやついた。

「やっぱり。マーサとは毎回、隠れて会っていたのね。たびたび屋敷を抜け出して、マーサは大丈夫なのかしら?」

「それなんだが……」

 私のため息に同調するように、エイブラムが眉をひそめた。

「どうも何日か前から(いとま)を出されているらしい。直接の(あるじ)であるキミが戻らないからだと彼女は言っていたが……。なにかしらの罰則なのではないかと俺は思っている」

 彼の杞憂に合点がいった。私もそれを感じていたからだ。()の側を離れたことに対する罰を受けているかもしれない、と。
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