囚われの令嬢と仮面の男
 外にだれかが立っている。瞬間、ハッと息を飲む男と目が合った。

「マリーンお嬢さ、」

 ゴツッと鈍い音がした。救出に現れた、おそらくは屋敷の使用人だと思われる男を、エイブラムが瓶で殴りつけたのだ。男が床に倒れた。

「マリーンっ、こっちへ!」

 真っ直ぐに伸ばされたエイブラムの腕。黒い革手袋をした手を取ろうと、腕を持ち上げるものの、腰が抜けてうまく立ち上がれない。

 震える指先を彼に向けたとき、彼のこめかみに黒く細長い筒が当てられた。

 先に倒れた男の手には、銃は握られていなかったのだと、そのとき初めて気がついた。

「そこまでだ、サミュエル。その場に(ひざまず)け」

 視線をわずかに下げて、彼の足から力が抜ける。エイブラムの顔がわなわなと(おのの)いた。白く美しい顔から血の気が引き、真っ青になる。

 彼は私へと伸ばしていた手を降参の形で持ち上げ、その場に膝を着いた。手にした瓶が床に置かれる。

「……お、とう様」

 彼に銃口を押し当てている当人を見つめ、声が震えた。

「ああ、マリーン。探し出すのが遅くなってすまない。もう大丈夫だよ」

「どうして、ここが……?」
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