囚われの令嬢と仮面の男
 エイブラムから屋敷との交渉は一切しないと聞いていたので、どうやってこの居場所にたどり着いたのかが気になっていた。

「探偵を雇ったんだ。おまえがいなくなったあの日、屋敷に出入りした行商人を調べたら、ひとり不審な男がいたと報告を受けてな。
 マリーンが裏庭で消えたことと、ちょうどそのとき侍女が付いていなかったことを探偵に言ったら、引っかかると言われて……侍女に暇を出してその動向を調べさせた」

 探偵を……雇っていた?

 その結果、私がいなくなる直前まで一緒だったマーサは、早い段階で疑われることになったのだ。

「あの侍女がたびたび会って紙袋を渡していたのが、このサミュエルだった。袋を受け取ったサミュエルを探偵に尾けさせて、ここにたどり着いたんだ」

「……そう、だったのね」

「ああ。こんなところに閉じ込められて、さぞかし恐い思いをしただろう。私が来たからにはもう大丈夫だ。さぁ、こっちへおいで?」

 こちらに差し出されたお父様の左手を見つめ、私はゆっくりと立ち上がった。数歩前進し、拳銃に肝を冷やす彼を横目にとらえた。

 銃口をググ、と押し付けられ、エイブラムが頭を下げた。
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