囚われの令嬢と仮面の男
「わかった。マリーンがそこまで言うなら、この銃は仕舞う。サミュエルに危害も加えない」

「本当!?」

「ああ、約束しよう。だからマリーン、いったん彼から離れて屋敷へ帰るんだ」

「彼も……一緒?」

「……そうだな、このままミューレン家へ招こう」

 抱きしめていた彼をそっと解放し、その表情を確かめた。エイブラムは頬を赤く染めていた。「窒息するかと思った」と恥ずかしそうに呟いた。

 そんな彼を見つめて、愛おしさが増した。青く澄んだ瞳と目が合うと、自然と笑みがこぼれた。小春日和のような暖かさが私たちを満たしていた。

「一緒に来て? エイブラムさん」

 私は彼の左手を取り、立ち上がらせようとした。

「ただし……マリーンと同じ苦痛は味わってもらう」

「え?」

 振り返ってお父様を見たときには、もう遅かった。お父様が銃のグリップで突然彼の頭を殴りつけた。ガツッと音がし、彼が床に倒れる。

「エイブラムさんっ!」

 倒れた彼に駆け寄ろうとすると、呆気なくお父様の手に捕まった。両手を後ろ手に掴まれて、びくともしない。

「いやっ、お父様っ、離して!」

「おい、サミュエルを屋敷まで運べ!」

「はい!」
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