囚われの令嬢と仮面の男
 胸を突き上げる不安と恐怖で、目頭がカッと熱くなる。とめどなく溢れ出る涙がはらはらと頬をつたった。

「やめて!」と泣き叫んでも、だれも聞き入れてくれない。

「ちゃんと縛り上げてからだ! 途中で目を覚ましたらどうする!」

「はい、か、畏まりました!」

 そのまま連れて行こうとする使用人たちを怒鳴りつけ、お父様は彼らに指示を出す。

「地下の貯蔵庫に空きを作って、閉じ込めておけ! そやつの処遇は帰ってから決める!」

「いやっ、彼にはなにもしないって約束したわ! 乱暴なことはしないで、お願いよ、お父様っ!」

「さぁ、マリーン。帰るんだ」

「いやぁっ……! エイブラムと一緒にいるっ、彼から離れるなんていやよ!」

「わがままを言うんじゃないっ!」

 泣きじゃくる私を力づくで引っ張り、お父様が部屋から私を連れ出した。

 階段を登った先のドアは壊されていて、なにもないさびれた一室の向こうに、空が広がっていた。

 数日ぶりに見る空は茜色に染まっていた。彼がいなくなるかもしれない恐怖で胸が押し潰されそうなのに、その色を綺麗だと思った。

 馬車に押し込められるまで、空を仰ぎ見て泣いた。愛しい人の名前を何度も繰り返しながら、感情の行き場を探すように私は泣き続けた。

 ***
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