Candy Spoon


日曜日

男の人と一緒にお出かけするなんて何年ぶりだろう。
緊張して昨日の夜はあんまり眠れなかった。

おろしたての服を着て、メイクもばっちり。
デートがメインじゃなくて、紅茶を味わうのが目的だから、と浮かれている自分に言い聞かせる。
それに、きっとポタちゃんも来るだろうから、2人きりじゃないはずだ。


待ち合わせはカフェの最寄り駅。
予定より早く着いてしまった。
と思ったら駅の前に葵さんの姿が見える。
遠くから見ても長身でスタイルがよくてかっこいい。



「ごめんなさい。待ちましたか?」

ポタちゃんも来るのかと思っていたら、いないようだ。


「ううん、今来たとこ」

このやり取り、少女漫画とかでよく見る。
顔が熱くなるのを感じた。




駅からカフェはとても近い。
すぐに到着した。


『カップル限定紅茶をご注文の方はこちらにお並びください〜』

見ると、カップルが列をなしている。
1組ずつ質問されているようだ。




しばらくして、ようやく私たちの順番になった。

『お待たせ致しました〜それでは質問させていただきます〜』

ごくりと息を呑む。
答えられない質問だったらどうしよう。

『お互いのことを何て呼び合ってますか〜?』

「葵さん」

「ましろ」

葵さんに名前を呼ばれたのが初めてだから、ドキドキしてしまう。


『なるほど〜』
女性店員さんは、うんうんと頷きながらも葵さんに見とれている。
葵さんはやっぱり誰が見ても、かっこいいらしい。


『そんなラブラブなお2人。改めて彼氏さんから愛の告白をどうぞ!』

え、告白?!
さすがの葵さんも告白なんて…






「ましろ、好きだよ」





葵さんが私を見つめる。
時が止まったように感じた。
このままずっと見つめられていたい。

『はっ、はーい!ラブラブ認定しまーす!』
店員さんの声で、ふと我に返った。
見ると、店員さんは顔を赤くしてポーッとなっている。






そんなこんなで、やっと席に着くことができた。
お目当ての紅茶も飲むことができそうだ。


そう思っていた矢先




「あれー!葵さんですよね?」

一人の女の子が葵さんに声をかける。

女の子は私の方を見ながら
「えっ、もしかして彼女さんですか?」
と聞いてきた。

タイミング悪く、葵さんのファンと遭遇してしまったようだ。
誤解されては、葵さんに申し訳ない。
違うんです、と言いかけた時…


「うん、彼女」

真顔で女の子に返事をする。

女の子はがっかりしたような、羨ましいような目をして、私の方をチラッと見た。

「お幸せに…」
そう言い、去って行った。




しばらくの無言。
気まずいと思っているのは私だけなのだろうか。


『お待たせ致しました〜メイプルショコラストロベリーティーです〜オマケのマカロンモンブランティーパックもお付けしますね〜』

ちょうどいいタイミングで紅茶が来てくれた。




飲むとふんわりとした柔らかい香りが口の中に広がる。
くどくない、ちょうどいい甘さだ。


紅茶を飲み、お目当てのオマケティーパックを貰うこともできた。
お財布を出し、お会計をしようとすると、葵さんがいつの間にか支払いを済ましてくれていたようだった。

葵さんにお礼を言い、外に出る。
ここでお開きか、と思いきや

「ごめん、ちょっとだけそこの公園で話せる?」

葵さんからの提案だ。
断る理由もない。
たしか、駅の近くに大きな公園があったっけ…







夕方の公園は、少し物悲しいような、そんな雰囲気に包まれていた。
側にあるベンチに腰掛ける。

「今日はごめん」

「えっ、なんのことですか?」

「彼女だってファンに言ったこと。あと店員さんの前で嘘の告白もした」

確かにびっくりはしたけど、謝られるほどのことではない。

「びっくりはしたけど…そんな謝るほどのことでは…」

「あのお店で否定したら、ややこしいことになると思って、咄嗟に嘘ついた。巻き込んでごめん」

嘘でも告白されたのは嬉しかったし、彼女と言ってくれたのは嬉しかった。

「そんなことないです。私も飲みたかった紅茶飲めたし、共犯です」

葵さんにお礼を言われ、じっと見つめられたから、思わずドキドキしてしまった。


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