Candy Spoon
いつの間にか眠っていたようだ。
窓の外は、すっかり夕暮れになっていて、カラスの鳴き声が聞こえる。
葵さんの手を握りながらベットの枕元で寝ていたはずが、私はリビングのソファーで横になっていた。
身体にはタオルケットがかけられている。
身体を起こして周りを見ると、葵さんの姿があった。
「おはよ」
葵さんは、ギターのお手入れをしているようだ。
「ごめんなさい、寝ちゃってました。具合、大丈夫ですか?」
「うん。だいぶ良くなった」
顔色は良さそうだ。
「ベットに寝かせようと思ったけど、汗くさいからソファーにした」
葵さんがソファーまで運んでくれたようだ。
「ありがとうございます」
ギターを持っている葵さんを見るのは、初めて会ったときぶりだった。
少し新鮮だ。
「葵さんに初めて会ったのはライブ会場なんですよね。あの時に聞いた曲が頭から離れなくて…実はCD買っちゃいました」
そう言うと葵さんは驚いた顔をした。
「えっ……どの曲?」
私は、大好きなメロディーを鼻歌で口ずさむ。
すると葵さんは、その曲をギターで奏でる。
「そのメロディー主旋じゃなくて、ギターパートじゃん」
葵さんは笑いながら言った。
「ギターのメロディが好きなんです」
いつもCDで聞いているからか、生で聞くギターの音に気分が高揚する。
「その曲、俺が作曲したんだ」
葵さんは照れ臭そうにそう言った。
「えっ!すごい!」
思わず大きな声が出てしまった。
葵さんは声を出して笑いながら、「そんなことない」と言う。
聞くと、バンドの曲は、ほとんどが葵さんが作ったものらしい。
歌詞カードをよく見ていなかったから気づかなかった。
「葵さんが素敵な曲を作るから、これからもっともっと売れっ子バンドになっていきますね」
「だといいけど……俺、夢があるんだ」
「夢…?」
「うん、武道館で一度だけでも演奏してみたい。武道館ってさ、ステージに立つと上から声援が降ってくるんだって。それを味わってみたい」
そう語る葵さんの目は、見たことないくらいキラキラしていて、それでいて、野心に燃えていた。
葵さんの夢が叶いますように。
葵さんならその夢を簡単に叶えてしまいそうな気がした。
※※※
「葵くん!大丈夫ポタかーー!」
「うん、向日さんが来てくれた」
「いいポタね〜」
「もしかしてわざと?」
「な、なんのことポタ〜?」