あなたを満たす魔法

「……不思議ですね……」

　訊ねるのは、よそう。そう思い頷くと、名渕も察したのか、それ以上。深理のことについては、言わなかった。

「迎えは来るのか？」
「えと……深理ちゃんが、また来てくれると……言ってくれました。自転車で」
「それは、あいつが楽するだけだね。荷物も持って帰ったのならな……何を考えているか、こちらもさっぱり分からん」

　さすが菱山の従妹だな、と息をついて言う。あかりは少し小さく笑い、そうですね、と頷く。

「深理ちゃんは、やっぱり、素敵な子です」

　思ったことをするりと言葉にする。

「ああ。変わり者だがな」

　名渕も自分のことは棚に上げて、そう零した。はは、とあかりは笑って頷く。
　やがて、そう言えばと名渕がカレンダーを見ながら言う。「もう明日か」

「家永さんにカットをしてもらうのは」
「はい。……ど、どきどきですね」
「ああ見えてあの人は、一人で花嫁を作ることもできる腕を持った、美容師だぞ。考え込んだり不安になることなど、杞憂だね」
「そうなんですか！？」

　驚いてあかりが声を上げると、慌てて口を手で押さえた。ごめんなさい、と謝ると、別に他の患者はまだ来ていないから気にするな・と、名渕は息をついた。

「は、はい。……でも、花嫁さん……。すごいですね」

　いやに関心した顔つきであかりが頷くと、まあなと名渕も頷く。「酒の席で零していたが」

「結婚する女性は自分の傍で磨かせて、式では自分が着飾り最高の女性にして、嫁に迎えることが出来たらいいとも。話していた」
「へえ……。……家永さんのお嫁さんは、幸せですね」
「お前には、そういう願望はないのか？」

「へっ？」淡々と問われ、あかりは惚けて変な声をもらして目をぱちくりさせる。それから俯き、カァッと赤くなると首を横に振る。「わたしは」

「家永さんに、お似合いの女性にはなれません」
「……いや、そうでなく。女子高生であるなら、結婚願望だって芽生える年頃でもあるのか、と思って、聞いたんだけど」
「？！」