あなたを満たす魔法
 夜になって帰ってきた家永に、足と手首に包帯を巻いてあることについて、酷く驚かれたが、ポトフを既に調理し出していた。あかりは苦笑して「心配してくださって、ありがとうございます」微笑み、お礼を言うと料理を続けた。思わず家永はため息をつく。(意外とこいつ、誰かに尽くすことに関しては、頑固なんだよなぁ。)そう思い、じゃあ手伝う。腕をまくって手を洗いだす。あかりはそれでも大丈夫だと言うが、年上の言うことを聞けとジト目で言うと、引きつり笑いをして頷いた。「じゃあ」

「ムニエルにする、サーモンに小麦粉をまぶしてください。塩とコショウは、もう振りかけてあるので」
「ああ」

 よく手を拭くと、出してあったサーモンを皿に乗せて小麦粉をまぶし、なじませだす。あかりはというと、穏やかな表情でポトフをコトコトと煮込んでいたが、その横顔を盗み見た家永は少しホッとする。

(この生活に、慣れてきたんだな。)

 最初に心配していたほど、泣いている様子もないし、深理という変わり者であるが、そんな友人だって出来た。名渕や菱山といった、頼れる存在だって居る。家永の弟の晴市とも電話で話していた。今度、やや産後不調で休養を取っている奥さんを含め、赤ちゃんとの3人家族宅にお茶しにお邪魔をする約束をしたと、喜んで話していたし、このまま穏やかな生活が続けばいい。そう心底思う。

「できた」
「あ、はい。じゃあ……アルミをフライパンに敷いて、お魚の皮が下になるように置いて……。そうです。冷蔵庫に切ったバターがあるので、それを乗せて中火でタイマーが鳴るまで待ってください」
「オッケー」

 冷蔵庫からバターを出し、ラップをはがしてサーモンの上へ一欠け乗せる。それからアルミホイルで包み、火を点けて少し待っているとバターの とろけるような、良い匂いがしてきた。

「あー。腹減った。そっちも美味そうだな」
「はい。初雪で寒い日ですから、温かいものをと。味見、しますか?」
「する」
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