あなたを満たす魔法
即答すると、あかりはクスリと笑った。ちょっと待ってくださいね。 火を消し、小皿にポトフをよそう。息を少し吹きかけてさますと、何気なく見ていた家永は、その唇にどきりとした。花びらのような形の良くやさしい色だ。リップケアも最近は惜しんでいないようで、潤い、とても柔らかそうに見える。そちらばかり見ていたが、あかりは顔を上げて「どうぞ」と小皿を差し出す。
──ただ一心に見つめてくれる、レトロな眼鏡のその奥の瞳。それに吸い込まれそう・なんて感じさせて、胸を高鳴らせた。家永は、ぼうっとしていたが、自分の頬を軽く叩いたあとにポトフを受け取る。「ありがと」あかりはというと、不思議そうにしていた。
野菜と、ごく普通のベーコンを切って煮ただけだ。けれど、とろとろした具材が、身体と心によく染み込む。野菜の旨みが、肉の生臭さをすっかり消しつつ、柔らかなやさしい味を生み出していて、とても。美味しい。
「すげーあったまるし、うめぇな。お前、ほんと良い嫁さんになるよ」
「……!」
少し目を見開いたあかりは、驚いて。やや赤くなる。おろおろと目を泳がせ、口を魚のようにぱくぱくとさせたあとに、言葉を選んでいた。何か悪いこと言ったか、と家永は感じたが、彼女は視線を落とした後に、エプロンの裾を指先でつまみつつ、こくりと頷く。「あ、……ありがとうございます」
「嬉しい、です」
「ああ」
「でも、……多分……」
「どした」
あかりは、俯くと同時に、動揺で目を何度もぱちぱちさせていた。長く黒々とした睫毛が、幾度も動く。見下ろしていた家永は言葉を待ったが、顔を上げた。
「お仕事から帰って、疲れていらっしゃるのに……お料理を手伝ってくださる、家永さんのほうが、……その。ずっと、素敵な旦那さんになると思い、ます……。」
りんごのように赤い頬と、顔。少し潤んだ瞳に映る家永は惚けていたが、献身的に尽くして微笑みかけているあかりの笑顔に、思わず口元を押さえて視線を外した。
──けれど、この気持ちの芽生え方に、否定をしたくはない。
「おう。あ、あの」
「……はい」
「ありがと、な。……ああ、俺は……」
──ただ一心に見つめてくれる、レトロな眼鏡のその奥の瞳。それに吸い込まれそう・なんて感じさせて、胸を高鳴らせた。家永は、ぼうっとしていたが、自分の頬を軽く叩いたあとにポトフを受け取る。「ありがと」あかりはというと、不思議そうにしていた。
野菜と、ごく普通のベーコンを切って煮ただけだ。けれど、とろとろした具材が、身体と心によく染み込む。野菜の旨みが、肉の生臭さをすっかり消しつつ、柔らかなやさしい味を生み出していて、とても。美味しい。
「すげーあったまるし、うめぇな。お前、ほんと良い嫁さんになるよ」
「……!」
少し目を見開いたあかりは、驚いて。やや赤くなる。おろおろと目を泳がせ、口を魚のようにぱくぱくとさせたあとに、言葉を選んでいた。何か悪いこと言ったか、と家永は感じたが、彼女は視線を落とした後に、エプロンの裾を指先でつまみつつ、こくりと頷く。「あ、……ありがとうございます」
「嬉しい、です」
「ああ」
「でも、……多分……」
「どした」
あかりは、俯くと同時に、動揺で目を何度もぱちぱちさせていた。長く黒々とした睫毛が、幾度も動く。見下ろしていた家永は言葉を待ったが、顔を上げた。
「お仕事から帰って、疲れていらっしゃるのに……お料理を手伝ってくださる、家永さんのほうが、……その。ずっと、素敵な旦那さんになると思い、ます……。」
りんごのように赤い頬と、顔。少し潤んだ瞳に映る家永は惚けていたが、献身的に尽くして微笑みかけているあかりの笑顔に、思わず口元を押さえて視線を外した。
──けれど、この気持ちの芽生え方に、否定をしたくはない。
「おう。あ、あの」
「……はい」
「ありがと、な。……ああ、俺は……」