桜が咲く前に
「千紘先輩」
「んー」
ソファーに寄りかかる先輩に振り返って話しかける。ゆるい返事で私までゆるみそう。
だけれど、そんなのは一瞬だった。
「どうして私の隣に座らないんですか」
わかりやすく動揺する先輩は珍しい。
何があっても冷静沈着、お化けやら怖いものに驚いている先輩はまるで想像できない。
そんな千紘先輩が私の質問で持っていたスマホを床に落とした。
“妃依が気がつくなんて…”って顔に書いてある。
「自然に?」
「じゃあ私もソファーのほう行ってもいいですか?千紘先輩の隣にいきたい」
「…あー、妃依のそういうとこ困る」
落としたスマホはそのまま、観念したようにソファーから降りて私の横に座る。
いつもとは違う私たちの間にある空気。
だけど、居心地が悪いとは思わなかった。