桜が咲く前に
「体調悪い?立てそう?はい掴まって」
「え、いや、ちょっ…」
掴まって、と言ったにも関わらず掴まる前に私の腕を引いた。
直後、勢い余って抱きつくような形になってしまう。謝るのよりも先に、必要以上に先輩から離れた。
「ごめんなさい!
あと、私体調悪くないんです!安全ピン、付けてただけで…」
「そうなの?ごめん早とちった」
「いえ!…あの、一つお願いしてもいいですか…?」
安全ピンが上手くできないことを伝えると、先輩は「花ちょうだい」と手を出してくれた。
あんまり表情に出なくて、だけど嫌そうな顔にも見えなくて。
どんな風に笑うんだろう。
そんなことを考えながら、胸元に近づいた綺麗な黒髪を見つめていた。
「ん、できた」
「ありがとうござい…」
「千紘!サボってんなよー!」