桜が咲く前に



「体調悪い?立てそう?はい掴まって」



「え、いや、ちょっ…」




掴まって、と言ったにも関わらず掴まる前に私の腕を引いた。




直後、勢い余って抱きつくような形になってしまう。謝るのよりも先に、必要以上に先輩から離れた。




「ごめんなさい!
あと、私体調悪くないんです!安全ピン、付けてただけで…」



「そうなの?ごめん早とちった」



「いえ!…あの、一つお願いしてもいいですか…?」




安全ピンが上手くできないことを伝えると、先輩は「花ちょうだい」と手を出してくれた。




あんまり表情に出なくて、だけど嫌そうな顔にも見えなくて。




どんな風に笑うんだろう。




そんなことを考えながら、胸元に近づいた綺麗な黒髪を見つめていた。




「ん、できた」



「ありがとうござい…」



「千紘!サボってんなよー!」


< 18 / 47 >

この作品をシェア

pagetop