桜が咲く前に
その声は先輩が元いた場所…受付のところから聞こえてきた。そうだ、と気づいたのは左胸に花が咲いてからのこと。
きっとこの人が“千紘”先輩だよね?
まだこんなに人が沢山いるんだから、仕事が終わっているはずがない。
私のせいで仕事放り出しちゃったのかな。
「お仕事の途中なのにごめんなさい!私行きますね、すみません」
荷物を全部持って立ち上がる。あとは教室に向かうだけなのに、何故か彼が私の腕を掴んだまま離してくれない。
「その泣きそうな顔はどうしたの。緊張してんの?それとも、不安?」
目覚まし時計が壊れちゃって寝坊して急いで準備した朝。そんな一日の始まりのせいか、とことん悪い日に感じた。
食パンが真っ黒に焦げてしまったり、今日のために買っておいた練り香水の存在を忘れていたり。
普通の日ならきっと「まあいっか」で受け流していたような、本当に些細なこと。