桜が咲く前に
ただいま
卒業式まで残り五日。バイトを初めてからもう三週間になる。
覚えることはほぼ覚えたけれど、接客の笑顔が固まっているらしく、改善している最中。
「…おまたせしました」
「うん」
日比斗くんと一緒に帰る日が来るなんて、と思いながら、隣に並ぶ。
決して、仲良くなったわけではない。
今から二時間前。
「変質者だって」
休憩中、花ちゃんは険しい顔でスマホを見つめてそう言った。
見せてくれた画面に載っていたのは、ファミレスの近くの道で、私も花ちゃんと似たり寄ったりな表情を浮かべる。
「ひよちゃん18時までだよね?日比斗に送ってもらうように頼んでおくよ〜」
「え、日比斗くんのお家ってここからすぐ近くじゃなかった?私と方向真逆…」
「女子高生一人で歩くのは危ないよ、まだ捕まってないみたいだし…
日比斗は強いんだよ、すっごく頼りになるから大丈夫!
あ、日比!今日の帰り―――」