桜が咲く前に
あの後日比斗くんは、私の好きな人を知らないはずなのに「良かったね」と耳打ちをして逆方向に帰っていった。
「なに」
「なんでもないです」
…どうしよう、好きって口から出ちゃいそう。
それくらい私は浮かれている。
可愛くおかえりって言えるように何日も前から頭の中で考えていたのに、目が合った瞬間パッと消えてしまうくらいの、千紘先輩の破壊力。
家まではあと五分くらい。
お互い話すことはたくさんあるはずなのに、千紘先輩の様子がいつもと違って見えて口を開くタイミングがつかめない。
「星がキラキラしてますね」
「輝いてなかったら夜で隠れて見えねえだろ」
何を言い出した、と顔をしかめるから、これ以上話すのをやめた。
今のは私の話題が間違いなく悪い。…悪いけれど、千紘先輩の機嫌も悪い。
なんで…?