桜が咲く前に



「千紘先輩、家ここです」



「ん、じゃ卒業式に」





少しだけ目を合わせて、わざとなのか分からないほど軽く私の指に触れるとすぐ顔を隠すように背を向けるから、なりふり構わず手を引っ張った。





「ってえ…」




「なんで言わないんですか!
私に良いことあげ過ぎちゃった?だからそんなに落ち込んでるんですか?」




「違うから」




「私の良いことと千紘先輩の悪いこと、交換しましょう!」





散々文句を言いながらも帰らない千紘先輩の腕を引いて、家に入った。





今日は両親は不在で、真っ暗な家はやっぱり寒い。





それでも千紘先輩は「玄関まで」と頑なで、私もそこまで強くは言えなかった。




電気、どこだろう。




大体の場所を手探りに壁を触っていると、千紘先輩の手が重なった。




…偶然じゃ、ない。




「電気…探してるんですけど」



「要らない。早く妃依の良いこと教えて」


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