桜が咲く前に
まだ目が慣れなくて、千紘先輩が見えない。
多分今、先輩はかがんでいて、そのせいで話すとちょうど私の耳に吐息がかかる。
心臓が飛び出しそうで息を止めたのもつかの間、少し動くとどこかしらが千紘先輩に触れて声が漏れる。
「っふえ…!」
「…早くして。
ちゅーしちゃうよ?いい?前できなくて残念そうだったもんね」
「そ、そういうこと言うのだめ!言います、言いますから!」
絶対にされないのはわかってる。
からかっているだけなのに、顔を赤くしてしまう自分が子供っぽくて、明かりがなくて良かったと思えた。
…というか、良いことってなんだろう。
出任せで言った訳じゃないけれど、なにかと聞かれると難しかったりする。
うーん、今日は…いつも通り学校に行って、バイトに行って、初めて日比人くんとたくさん話せて…
あ。
「友達が増えました!」