桜が咲く前に
そう言って、千紘先輩の手の先がほんの少し私の唇に振れた。
私たちが話している声は聞こえていないものの、いきなり千紘先輩が抱きしめたりするから周りからは甲高い声が響いた。
千紘先輩はそのまま気にせずに行ってしまうんだけれど。
私だって「きゃー」だよ…
今の、返事してるようなものじゃん。
夢?って疑う私のすぐ隣で大興奮なミナちゃん。
三年生の列が途切れる度に「よかったね」と飛び跳ねるように喜んでくれるから、時間が経つ度に現実味を帯びていく。
それから数時間、卒業式が終わる頃には、ドキドキの音が大きすぎて疲れてしまうほどだった。