桜が咲く前に



「…卒業おめでとうって一番に言いたかった」



「今でいいだろ。
いつ言われたって妃依の言葉が一番だよ」



「…ずるいことばっかり言う」




今日、千紘先輩が今までで一番甘く感じる。




いつもの先輩だったら「親が一番早く言うに決まってんだろ」とか「卒業祝われても嬉しくない」とか言いそうなのに。




これからは、学校に行っても先輩には会えない。無条件で会えていたはずの毎日が変わってしまう。




…千紘先輩も同じ?




私と会えないから、今日はとびきり優しくしてくれるのかな。





「…妃依、100%伝わったけど」



「ひゃく…?なにが100%…」





どこかで聞いたことがあるそのフレーズに首を傾げる。




たしか教室で、この席で…





“―――これくらい私の中に千紘先輩がいるんだよって、100%伝わる手段にしたい”





千紘先輩がくれたホッカイロが無駄になってしまうほど、一瞬にして寒さが戻ってきて。


< 41 / 47 >

この作品をシェア

pagetop