桜が咲く前に
「…卒業おめでとうって一番に言いたかった」
「今でいいだろ。
いつ言われたって妃依の言葉が一番だよ」
「…ずるいことばっかり言う」
今日、千紘先輩が今までで一番甘く感じる。
いつもの先輩だったら「親が一番早く言うに決まってんだろ」とか「卒業祝われても嬉しくない」とか言いそうなのに。
これからは、学校に行っても先輩には会えない。無条件で会えていたはずの毎日が変わってしまう。
…千紘先輩も同じ?
私と会えないから、今日はとびきり優しくしてくれるのかな。
「…妃依、100%伝わったけど」
「ひゃく…?なにが100%…」
どこかで聞いたことがあるそのフレーズに首を傾げる。
たしか教室で、この席で…
“―――これくらい私の中に千紘先輩がいるんだよって、100%伝わる手段にしたい”
千紘先輩がくれたホッカイロが無駄になってしまうほど、一瞬にして寒さが戻ってきて。