桜が咲く前に
「一緒。
妃依が俺をいいなって思った日、俺も妃依に落ちた」
「…ほんとう、ですか」
「あの日、俺が受付から離れたからか花の針が怖かったからか知らないけど、妃依は俺のこと心配そうに見てて」
きっとどっちもあっただろう。
千紘先輩のお友達の呼びかけで、先輩の名前が“千紘”だってわかったと同時に、私が彼をサボらせている形にしてしまっていたことを自覚した記憶がある。
針はやっぱり怖くて、だけどやってもらっている身で目を背ける訳にもいかずに、針を通す千紘先輩を見つめていた。
「そん時、この子にずっと見つめられてんのいいなって思った」
そっか、私たちは同じ日に、あの昇降口の隅っこで同じことを思ってたんだ。
幸せをくれた分返すはずだったのに、積もっていくばかりで追いつけない。