桜が咲く前に
「…結構わかりやすくしてたつもりだけど。なんも思ってなかったら家で手出したりしない」
「ええ、千紘先輩慣れてそうだから」
「妃依ちゃん、そういうの偏見っていうんだよ」
最初から私は先輩の一番になれてたんだ。…どうしよう、この浮かれた気持ち。
しばらくして髪から離れた千紘先輩の手を握る。
…今は離れたくない、そう思って握った手。
びっくりしたような顔をしたから、余裕の無さそうな先輩の様子に嬉しくなったのはつかの間、悪そうに唇が弧を描く。
悪い予感に目を逸らしたけれど、きっと先輩は離してくれない。
「―――妃依、おいで」
「が、学校です!」
「学校でできるの今日しかないよ?俺もう卒業したんだから。
…ひーよ、こっち向いて」
最初だとか最後とか、そういう言葉に弱い私は少したじろぐ。
学校が最後ってことは、この制服姿を見るのだって最後だってことで。