成人女性
 ハチミツといえば紅茶やヨーグルトに入れたりパンケーキにかけたりと甘いものに使われる方が多いのではないかと思うが、あの日の私は気がついた頃にはハチミツを(すく)ったスプーンを卵サラダの中に沈めて黄色い卵の中にハチミツが混ざってゆくのをただ黙って見てかき混ぜていた。
 混ぜ終わった頃にふと冷静になって、これは料理に対する冒涜(ぼうとく)ではないかとさえ思い恐る恐る味見をするとあら不思議、ハチミツの甘さで胡椒の刺激が丸くなり卵にもコクが出た。
 つい口元が(ほころ)んで次の一口が出そうになるほど美味しくて驚いた覚えがある。
 それ以来、料理が完成して味見をした段階で甘みが欲しくなったときや砂糖では馴染みにくい料理の時はハチミツを加えるようになった。

 料理というのは日常的に触れるものであるが、本当に奥が深いもので生き物のようである。
 作り方や調理に対する姿勢ひとつで味わいが変わり、(ひらめ)きひとつでケダモノがシロモノになる。
 つまるところ、和食であろうと洋食であろうと、あるいはその他の国の料理であっても、作法以前に食事があることや美味しく食べることができるというだけで素晴らしいことなのであろう。
 その次にあるものが食事の作法であるとすれば、それは料理に対する礼儀なのであろう。
 お箸やナイフとフォークは美しく持ち正しく使うに越したことはないと思うが、三角食べはいかがだろうか。
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