成人女性
 「いや、ちょっと今回数学が危なかったんで、数学だけ頑張ったんですよ。それ以外の教科は一切勉強していません」
 目前(もくぜん)で「ノー勉」を宣告されたあの先生の微妙な表情は今でも覚えている。

 こういったことがあって、私はれっきとした「ブンジョ」であるし、「数弱」である。
 受験の第一関門、共通テストの数学で四十点台を取り泣いて喜んだことは記憶に新しい。
 高校二年の春以来私は数学が苦手意識があり、繰り上がりや繰り下がりのある計算には自信がなく、大きな桁数の掛け算もできず、アナログの時計盤が読めず、時間や年代の計算も下手である。
 論文を読んでいてグラフが出てきた時にどなたかから
 「このグラフのところ、意味わかる?」
 と訊かれると、私は
 「これは、AとBに相関があるってことを言ってるんだと思う。たぶんね」
 という曖昧な返事をしてみるのだが、きっとお相手の方も私も、私が何を言っているのかはさっぱり理解していないのである。
 数字にめっぽう弱い。
 それでも論文に数字が出て来れば多少勉強して読み進める。
 数学ができない。
 それでも、遠回りしてでも計算して自分なりに答えを出してみる。
 指折り数え、電卓や表計算ソフトといった便利で数学の得意な機能たちを使いこなして、どうにか今日(こんにち)までこの社会でやってきている。
 リケジョという言葉があるのならば、私は胸を張って
 「文系女子、略してブンジョです」
 と冗談を言い、握手の手を差し出そう。
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