成人女性
 基礎練習が嫌い、その先の練習も嫌だ。
 とにかく練習という自分のミスを見つけて訂正する作業がひどく嫌いであった。
 ギターに関しては本当に相性が良く才能があったと自負する部分もあるが、いずれの楽器にしても人前で演奏するのであり、曲がりなりにもセミプロまでは上り詰めた人間である。
 生来、楽器は変わりながらも十八年弱音楽を奏でてみて、私はいつしか、思い立った時に軽く音を奏でるだけで良いと思うようになった。
 誰かに聴いていただくために発狂しながら練習するなんて。
 そう思った時から、音楽はたくさんだ、自分がやりたいようにやればいいのだと考えている。

 現在私の手元にある楽器は三本のギターと私の体である。
 ギターは気が向いたら弾いてみるし、気がつくと鼻歌を歌っていたり、髪を乾かすときに歌っていたりする。
 そして、私はそうやって音楽をやっているときも、音楽を辞めた今もたくさんの音楽に出会い、奏でている。
 これまでの音楽遍歴を通して私は多様な種類の音楽を聴いているのだが、この人の(さが)というものがどこか残念というか、お気づきの方もいらっしゃるかもしれないが、私はどうも多くの人が好む音楽よりも、自分の心地の良い音楽に傾倒したようである。
 私自身、自分の音楽の趣味に引け目は感じていないが、やはり歌謡曲や海外のマイナーな音楽を聴かされては話も弾まないので、私はこれまでの音楽遍歴も自分の音楽の趣味も無視して、
 「洋楽を聴いているの」
 と、笑って言うのである。
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