成人女性
 それでも、私はまっとうに道を渡っていたのだ。
 もし運転手の人が中毒かサイコパスの(たぐい)ならば、ぜひ人を轢いた罪を償っていただきたいと思う。
 こういった具合である。
 この話をするにあたって最も重要な点は私が生きていることである。
 命を落としてしまえばそこまでなのだが、私は一応死後の世界はあると思っている人間なので、もしかしたらあの世で同じことを考えているかもしれない。
 
 万が一のことを考えて横断歩道しか渡れない人間になってしまった私だが、この心がけが役に立ったことは何回かある。
 どちらも高校の時の話だが、駅から学校に向かって住宅街沿いの少し大きい通りを歩いていると、横断歩道に遭遇する。
 青信号になったのを確認して、左右を確認する。
 電気自動車が猛スピードで目の前を走り去った。
 一時停止違反である。
 もしあの場に警察がいたら、数分もしないうちに切符が切られるだろう。
 違反はさておき、このとき、私は横断歩道を渡っていなかったために、轢かれずに済んだのである。
 左右を確認ぜずに渡っていたら、間違いなくスッ飛んでいるだろう。
 あのとき持っていた重すぎる制鞄とリュックサックのおかげでグチャグチャになったまま道路に横たわっていたかもしれないが。
 横断歩道ついでに言うと、私は電気自動車が苦手だ。
 脱炭素だ、二酸化炭素を減らすんだ、と訴えている世間で電気を動力とするクリーンな自動車が街中を走ることは大変素晴らしいことだとは思うが、静かに走るので、その存在に気が付かないときがある。
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