成人女性
 世間には「簡単料理」や「時短料理」というものが存在する。
 調理時間や手間をできる限り省きながらも美味しい料理ができるという、十分に時間が取れないときの救世主である。
 私は時短を試みて具材をまな板と包丁ではなく(はさみ)で切り刻んでしまったり弱中火のところを中火で煮てしまったりする人間なので、世の中の時短料理とはかけ離れた料理を発明することが多い。
 発明品でも大抵は砂糖と塩と醤油か塩胡椒でそれとなく一般的な味になるのだが、口に入れてみても特別美味しいと感じることはないのである。
 私の好きな女優のひとりである高峰秀子さんの語録か何かで拝見した(はず)だが、料理には手間の掛かりようが現れるというような言葉があった。
 料理は雑に作れば雑な味に、丁寧に作れば丁寧な味がするのだそうだ。
 彼女の言葉の通りで、大学帰りに発明した料理よりは週末や時間に余裕のある日に作り置きした料理の方が美味しいと感じるのである。

 料理は丁寧に作れば丁寧な味になるというのは紛れもない事実であるが、時に差し迫った状況のひらめきでうんと料理が美味しくなることがある。
 ある日の朝、私は好物の卵サンドを作るべく卵を茹でて殻を剥きフォークで荒く潰したところにマヨネーズと塩胡椒を振って卵サラダを作った。
 あとはパンに挟むだけというところで卵を味見すると、塩胡椒が効きすぎていたのかピリッとして卵の味がまるでしなかったのだが、作り直す時間など到底無い。
 食べられたものでもなさそうな(けだもの)を生み出した私の目に入ったのは、ハチミツの瓶であった。
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