婚約者の執愛
舞凛も慌てて追いかける。

舞凛の追いかけてくる、スリッパのパタパタとした足音。
その音でさえ、可愛い。

愛しくて、今すぐにでも押し倒したい程だ。

「律希様!」
「何?」
「本当に申し訳ありません!」
「………」

「どうか、許して━━━━」
「じゃあさ!」
「は、はい!」
「キスして?」
「え……!?」
「出きるよね?」

「は、はい…」

ベッドに腰掛けた律希が、舞凛を膝に跨がらせた。

「僕がしてるみたいにして?」
そう言って、目を瞑った。
舞凛の震える手が、律希の口唇に触れた。

たったそれだけのことで、律希は興奮し身体が反応する。

ゆっくり口唇が重なって、少しずつ深くなる。
舞凛の舌が入ってきて、更に律希の興奮が増す。

律希は、果てそうになる。

「んんっ!!?」
思わず、律希が声を漏らすと舞凛がバッと口唇を離した。
「ご、ごめんなさい!!嫌でしたか!!?」

「ううん…」
「ごめんなさい…下手で……」

下手?
どこが!?
確かに上手いとは言えないかもしれないが、律希からすれば煽られて興奮が収まらない。

「ううん。ありがと。
もう、許してあげるよ」
「ほんとですか?良かったぁ…」
ホッと肩を撫で下ろす舞凛を見て、愛しさが増す。

「舞凛」
「はい」
「プレゼントがあるんだ」
「あ、はい」

リビングに戻り、小さな紙袋を出す。
中身は、花柄のネックストラップだった。

「あの、これ…」
「これをつけて、スマホ肌身離さず持ってて。
もちろん、僕と一緒の時は外してていいから。
僕と一緒の時はスマホなんかいらないし、逆に邪魔だもんね」

「でも、どうして……」

「……………耐えられないんだ」
「え?」
「舞凛から返事が“すぐ”来ないこと。
嫌われたんじゃないかって不安で、何も手をつかない。
だから舞凛が肌身離さず持っててくれたら“気づかない”なんてなくなるでしょ?」

「は、はい…
わかりました……」

受け入れる“しか”選択肢はない。
どんなにおかしく、理不尽なことでも……


「━━━━━いただきまーす!」
「ど、どうぞ」
舞凛の作ったオムライスを頬張る、律希。

「どうですか?」
舞凛は緊張しながら、律希を窺うように見る。

「ん!」
「ん?」
「美味しい~!」
「ほんとですか!?良かっ…た…」
安心したように息を吐いて、舞凛もオムライスを食べ始めた。

「可愛い…」
「え?」
「舞凛を見てると、全然飽きない!
コロコロ表情が変わって、可愛くてしかたがない!」

ガタッと音をさせ、立ち上がった律希は舞凛に近づき口唇を奪った。

そして「フフ…ケチャップ味だ!」と笑った。
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