婚約者の執愛
今日も18時頃に帰ると聞き、もう少ししたら夕食の準備に取りかかろうとしていた頃。

インターフォンが鳴り響いた。

モニターで確認する。
綺麗な女性が、花束を持って立っていた。

「はい。どなたですか?」
「初めまして。
私、律希の幼馴染みの梅島 紗莉渚と申します。
ご婚約されたと聞いて、お祝いに来ました。
少し、お邪魔してもよろしいかしら?」

「あ…は、はい!」
律希の幼馴染みなら、いいだろう。
そう思い、紗莉渚を招き入れたのだった。
「宗形 舞凛です。こんにちは」
「………」
(………地味な子…)

「あの…?」
「あ、ごめんなさい。
お邪魔します。
ご婚約おめでとうございます。
これ、どうぞ?」
紗莉渚が、持っていた花束を舞凛に渡した。

「うわぁー、綺麗……!」
舞凛は、花が大好きだ。
目を輝かせて、花束を受け取った。

「ありがとうございます!
あちらへどうぞ?」
紗莉渚をソファに促した。

「ありがとう」
紗莉渚がソファに座る。

「あの、お花を水につけてきていいですか?
せっかくの綺麗なお花なので……!」
「もちろん!」
「すみません。ゆっくりしててくださいね!」
舞凛は微笑み、洗面所に向かった。

舞凛がいなくなり、紗莉渚は部屋を見渡した。
「何、この部屋……」

部屋内にある物、全て……ペアなのだ。

クッション、椅子、飾ってある雑貨もペアの物ばかり。
アイランドキッチンを覗くと、ペアの食器ばかりが水切りかごにふせてあった。

「なんであんな地味な子の、何処がいいの!?」
紗莉渚は嫉妬心から、思わず声に出た。

玄関が開いて舞凛を初めて見た時、紗莉渚はかなり退いていた。
お世辞にも綺麗と言えない、舞凛。

“見方を変えれば”可愛いと言える。
それは舞凛が小柄で童顔で、雰囲気が柔らかいから。
そんな舞凛を、律希は“可愛い”と言ってはしゃいでいた。

信じられない。
律希があんなにはしゃぐ程だ。
さぞかし美しい令嬢だと思っていた。

でも名前も聞いたことのない、地味な子。

どうしても、律希の婚約者だなんて納得できない。


「お待たせしました。
あれ?梅島さん、どうしました?」
舞凛が戻ってきて、キッチンを覗いていた紗莉渚に声をかけてきた。

「あ、ご、ごめんなさい!
喉が、渇いたなぁって……」
「あ、そうですよね!
すみません!先に飲み物をお出しするべきでした。ちょっと待ってくださいね」

舞凛は食器棚を開けてハッとする。
(そうだった…食器は、ペアしかないんだった。
どうしよう……)

舞凛は、しかたなくペアのカップにコーヒーを淹れ、紗莉渚に出すのだった。
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