婚約者の執愛
それからも山野のおかげで、大学にいる間も律希の機嫌を損なわせずに済んでいた。

「舞凛様、この辺で何かメッセージをお送りした方がいいかと……」
「あ、はい!」

端から見れば、変だが……山野がアドバイスをしてくれるおかげで助かっていた。


「山野さんは、どうしてこんなに律希様のことがわかるんですか?」
学食で昼食中。
不意に舞凛が、問いかけた。

「愛しているからです」

「え……」
思わず、動きが止まる舞凛。

「私は律希様に憧れて、律希様の会社に就職しました。
秘書課に配属されて、律希様の秘書の一人になったんです」

「嘘……私、ご、ごめんなさい!
こんな……」
「あ、気にされないでください!
私は、幸せです。
律希様のお力にたててることが……」

「え?律希様の心が、自分に向いてないのにですか?
苦しくはないんですか?」

「苦しいですよ。
律希様が、舞凛様“だけに”見せる蕩けるような表情(かお)
私に向けてくれないかなって……」
「じゃあ、どうしてこんなこと……」

「律希様の幸せが私の幸せだからです」

「え……」

「律希様は、愛してる人を自分だけのモノにしたいとおっしゃりますが、私は愛してる人が幸せなら、相手が誰であっても構いません。
だから、私は律希様の為に舞凛様の傍にいます。
律希様の幸せの為に、舞凛様を放さない」

「山野さん……」

「だから私は決して、舞凛様の味方ではありません。どちらかというと“敵”なのかも?
だって、私は舞凛様のことを律希様を幸せにする為の“道具”だと思っているのだから」

舞凛を見据える山野。
ただ見つめているだけなのに、とても恐ろしい。

“貴女に逃げ道はありません”と言われているようだった。


「宗形さん!」
「え?あ、浪野(なみの)さん」
「久しぶり!」
「うん」
「久しぶりに……お茶、しない?」
「え?」

「無理です」

「「え……」」
舞凛と浪野が、山野を見た。

「申し訳ありませんが、舞凛様との関わることはおやめください。
舞凛様、行きましょう。
講義が終わったら、真っ直ぐ自宅に帰る。
これは、厳守です!」
「はい。
…………浪野さん、ごめんなさい。行かないと……」

そう言って、舞凛は山野と共に大学を出ようとする。

「待って!!」
そんな舞凛を手を掴む、浪野。
「え?」

「相談が……あるの……」
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