婚約者の執愛
「舞凛」
「は、はい!ごめんなさい!」

「ん?どうして謝るの?」

律希はゆっくり舞凛の頭を撫で、優しく言った。

「幻滅…しましたよね…?」

「まさか!
僕は、凄く嬉しいよ?
舞凛の初めての男になれるなんて……!
今感動して、興奮してる!」
「え?」

「だって…舞凛は可愛いから、当然恋人いたことあるだろうなぁって、諦めてたんだ。
何もかも僕だけのモノにしたいけど、さすがにキスやセックスは他の奴にされてるんだろうなぁってね。
そしたら、まさか経験がないなんて!
嬉しすぎて、幸せ!!」


それから舞凛は律希に抱きかかえられ、バスルームへ連れていかれた。
緊張で震える舞凛の服を優しく脱がして、中に入れ、身体を洗い、バスタオルだけ巻いてベッドルームに向かった。

「舞凛、大丈夫だからね」
ベッドに下ろして組み敷いた律希は、舞凛の頭を優しく撫でて微笑んだ。

「はい…」
「優しくするから、痛かったり怖かったら言って」
「はい…」

律希の手や口唇が、優しく舞凛の身体に落ちていく。

律希の手も、震えていた。
想いが強すぎて、舞凛を壊してしまわないだろうか。
傷つけてしまわないだろうか。

律希はできる限り優しく、でも…狂おしい程に激しく舞凛を愛したのだった━━━━━━



━━━━━━━律希の腕枕で、舞凛が寝息をたてている。
ゆっくり舞凛の頭を撫でながら、律希は心底嬉しそうに笑っていた。

「やっと……やっと、手に入れた。
一年は長かったなぁー」

去年、律希の誕生日と副社長就任の祝いのパーティーで舞凛を見かけた律希。

舞凛は一人で窓際に佇み、空を見ていた。

律希にとってパーティーは、黒くて汚ないものだった。
みんな下心をもって律希に媚びを売り、男は地位や名誉を、女は律希の妻になろうとして寄ってくる。

毎回、鬱陶しさを感じていた。

そんな時に舞凛を見かけて、律希は一気に心を奪われたのだ。

舞凛の周りだけ空気が柔らかくて優しくて、とても綺麗だったのだ。

意識が舞凛にしか向かなくなり、舞凛しか見えなくなる。

僕を見てほしい。
声が聞きたい。
触れたい。

そんな感情に支配され、仕事も食事も、何も…手につかなくなる。

そして律希は父親を使い、政略結婚という形で舞凛と見合いをして手に入れたのだった。



「フフ……
捕獲、完了……!」


律希の言葉が、静かなベッドルームに響いた。

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