婚約者の執愛
そして、会社に向かう車内━━━━━━

秘書の御堂(みどう)は運転席からバックミラー越しに律希を見る。

煙草を吸いながら、恐ろしい雰囲気を醸し出している律希に身震いしていた。

「律希様」
「あ?」
「どうされたんですか?」

「舞凛に会いたい」

「は?つい先程まで、一緒だったのに?」

「うん。会いたい」

「そこまで、舞凛様を?」

「舞凛以外の人間、消えてくんないかなってくらい好き」

「ほんっと、貴方は凄まじく恐ろしい方だ……」

御堂は、律希の凄まじい狂愛に再度身体を震わせていた。


仕事中━━━━━
御堂がふと律希を見ると、窓の外を見ながらぼーっとしている。

「律希様」
「何?」
「もうすぐ、会議の時間です。そろそろ会議室へお願いします」
「うん」

会議室へ向かっていると、後ろからタタタッと足音がして抱きつかれた。
「は?
━━━━━━紗莉渚(さりな)!?」

振り向くと、梅島(うめしま)財閥の令嬢・梅島 紗莉渚がいた。
律希の中学からの同級生で、いつもくっついていた。

「律希!久しぶり」
「………」
「律希、もうすぐお昼でしょ?
一緒にランチしよ?」
抱きついたまま、律希を見上げ微笑む紗莉渚。

紗莉渚は一方的に律希に惚れていて、学生の頃から勝手に律希の彼女のようにふるまっていた。

律希の身体に、一気に鳥肌が立った。
ゾッとして、吐き気までしてくる。
凄まじい嫌悪感が湧いてきたのだ。
今までも紗莉渚に対して不快感は感じていたが、これ程まではなかった。
しかし舞凛に惚れている今……それは、堪えようのない殺意にも似た感情に包まれたのだ。

「離して」
低く重い声で言った、律希。

律希は、どちらかというと男性にしては高くて可愛らしい声をしている。
その律希からは想像できない低い声が出ていた。

「え………り、つき……!!?」

律希の真っ黒な闇のような雰囲気と今まで聞いたことのない低い声に、紗莉渚はビクッと震えゆっくり離れた。

「今から会議がある。
ランチなんかしない。
帰って」
黒い雰囲気のまま、淡々と言って会議室へ向かったのだった。


「今の……ほんとに、律希…なの…?」
律希の後ろ姿を見て呟く、紗莉渚。

物腰が柔らかく、可愛らしいスマートな男・律希。

そんな律希からは想像もできない、恐ろしい表情と殺気だった雰囲気。
一瞬で、地獄に落とされたような恐怖を感じたのだ。
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