婚約者の執愛
会議が終わり、副社長室に戻ると紗莉渚がいた。

「まだいたの?帰ってって言ったよね?」
嫌悪を剥き出しにし、睨み付ける。

「う、うん…久しぶりだし、話したいなって!」

「僕は、話すことない」
律希はデスクチェアに座り、パソコンを操作しだした。

「律希、お昼ごはんは?食べないの?」
紗莉渚はこれ以上律希の機嫌を損ねないように、できる限り優しく問いかけた。

「━━━━━あのさ!!」
「え……」
「名前!!」
「え?」

「僕の名前、気安く呼ばないで」

「え?」
「前から思ってたんだ。
なんで、君だけ僕を“律希”って呼び捨てなのかなって。
僕、許可した覚えない」

「あ…ご、ご、ごめんなさい!
律希…さん、婚約したって聞いたんだけど……
ほんとなの?」
「………」
「律希さん?」
「………」

律希は黙々と作業をする。

「はい。律希様は、昨日ある方とご婚約されました」
見かねた御堂が、紗莉渚に言う。

「誰?」
「それは、申し上げられません」
「どうして?」

「律希様が、婚約者様にご自分以外が関わることを嫌悪されるからです。
私でさえ、関わることを嫌がります」

「何よ…それ…」

そこに律希のスマホに、メッセージが入る音がする。
律希が確認する。

「━━━━━━!!!?
律希…さん…?」
「律希様?」
一瞬で、律希の包む雰囲気が柔らかく優しくなる。

あまりの変わりように、御堂と紗莉渚は驚愕し固まった。


舞凛からのメッセージだった。
『お仕事中にすみません。
今日は、何時頃に帰ってきますか?
あと、今日は私が夕食を作ろうと思ってるんですが、オムライスとハンバーグとパスタどれがいいですか?』

律希はすぐ、電話をする。

『はい』
「舞凛!!メッセージ、ありがとう!」
『あ、いえ。今、大丈夫なんですか?』
「うん!舞凛からの連絡は、いつでも大丈夫だよ!
いつでも連絡しておいで?」

はしゃぐように話している律希を見て、御堂と紗莉渚はただ驚愕していた。

『それで、何時頃に帰ってきますか?』
「ん?あ、そうだった!
えーとね。18時には帰れるよ!
ご飯は、舞凛が食べたいもので構わないよ!舞凛が作った物なら、何でも食べるよ!」
『わかりました。じゃあ…オムライスにしますね』
「はぁーい!
楽しみにしてるね!」
『あ!でも、あんまり期待はしないでください……!昨日の律希様のお料理には、敵いませんので……』

「フフ…ほんっと、可愛いなぁ~
そんなこと気にしないで?
舞凛が作ることに意味があるんだから!
……………じゃあ、終わったら一度連絡するからね!」

律希は満面の笑みで、通話を切ったのだった。
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