タイムリミット
今日も病院に向かって歩いていた。
その時・・・
「あれってさ心乃じゃね?」
「ほんとだ」
「学校休んでいつも呑気に歩いてんの?」
「やば」
最悪だ。
いつも呑気に歩いてるって私の事なんも知らないくせに。
まあ遅刻して学校に行けばいいけど遅刻して注目されてしまうのが嫌だからいつも病院で大きい検査がある時は休んでいる。
みんなが学校に向かいながらこっちをちらちら見てくる。
どうせ「ずるい」とか「キモイ」とかの悪口を言っているんだろう。
でも病気のことはバレたくないから言うわけに行かない。
急いで病院に行って検査を受けた。
血液検査で異常が見つかってで一日だけ入院することになった。
入院は小さい時に1回したことがあったし、血液検査の異常なんてしょっちゅうだからそこまで緊張しなかった。
でもその時はお母さんがいたから。
今はお母さんもお父さんもいない。
でも天使がいる。
いつもお母さん、お父さんのように
家に帰ったら「おかえり」、学校に行く時に「気をつけて行ってらっしゃい」、
病院から帰ってきたら「大丈夫だった?」
と必ず聞いてくれる。

自分の泊まる部屋に入って天使をよんだ。
「あれ?ここどこ?」
「なんか入院することになって」
「え、大丈夫なの?」
「検査の結果待ちで」
血液検査で異常があった事は言えない。
「あー。なにかあったら僕に言ってね」
「うんありがとう」
やっぱり天使は親のようだ。
優しい瞳はお母さんを思い出す。
優しい声はお父さんを思い出す。
天使と一緒にいると安心感でいっぱいだ。
「あ、心乃ちゃん学校に電話しないと」
天使に言われて思い出した。そうだ。
学校に休むことを伝えないといけない。
「あー、そうだ、電話するね」
「うん」
プルルル
「もしもし」
「もしもし、その声は心乃か?」
「はいそうです。えと、明日学校休みます」
「おー、大丈夫か?入院か?」
「はい。いつもすみません。」
「謝ることじゃないぞ、事情はしってるからな、体のことを1番にな」
「ありがとうございます。失礼します」
電話をきったあと、ふぅとため息が出てしまった。
1年生の時から私の病気のせいで先生は気を使ってくれている。
それを考えると同時に不安な気持ちでいっぱいになった。
先生は私が入院で休むとみんなに伝えるのか。
もしそうだったら最悪だ。
『あいつ病気持ちだ』『移されたら最悪』
と悪口を言われるに違いない。
小学生の時、入院して学校を休んで久しぶりに学校に行ったら私の周りには誰もいなかった。
誰も私のところに来てくれなかった。
自分から話しかけたけど「病気うつるからやめてー」「こっちくんなー」とみんな離れていってしまった。
だから絶対病気のことはバレたくない。
先生にちゃんと伝えればよかった。
『みんなに病気のことは言わないで』
と言っておけばよかった。
でも今まで先生は病気のことをみんなにばらさないでいてくれている。
だからきっと大丈夫。
そう信じ込んだ。

病院の夜はすごく怖かった。
幽霊が出るんじゃないかと怖くて寝れない。
「天使〜」
「どーした?寝ないのー?」
「幽霊出そうでさ」
「怖いの?」
天使がからかうように言ってきた。
「だってー」
「えー?天使も幽霊も一緒だよ」
「一緒じゃないよー」
「はいはい 僕がここにいるから」
「ありがとう」
いえいえと天使が微笑んだ。
天使が横にいてくれるとすごく安心する。
すぐに眠りについてしまった。

夢の中で病気が悪化して死ぬ夢を見た。
怖くて怖くて起きてしまった。
起きた時、心臓がいつもの10倍くらいの速さで動いていた。
夜中に申し訳ないとは思ったけど天使をよんだ。
「天使〜」
「どした?え、なんで泣いてるの?大丈夫??」
自分では泣いていることに気づかなかった。
天使に言われて初めて気づいた。
触ってみると目の下が濡れていた。
「怖い夢見て、夜中にごめんね」
「全然大丈夫、」
そう言って天使は私を抱きしめた。
天使はすごく暖かかった。
背中をさすられ、ボロボロと涙が溢れ出した。
耳元で「大丈夫。大丈夫。絶対そばにいるからね」
と囁かれ、さらに涙が溢れた。
声、体温、抱きしめ方、手、天使の全てが優しい。優しすぎる。
「ふふっ、相当怖かったんだね。大丈夫だよ〜。」
「死んじゃう夢見て」
「あー、喋らないで大丈夫。呼吸整えて後で話聞くから今は落ち着こ」
また涙が溢れ出す。

しばらくしてから落ち着いてきた。
「もう大丈夫??話聞かせてくれる?」
「うん。病気で死んじゃう夢見たの。」
「意外だなー、ふふっ、」
「なにが?」
「心乃ちゃん辛いことがあっても誰にも言えないタイプかと思ってた。」
天使が笑いながら言うので首を傾げる。
「え、なんで?私、強くないよ」
「ううん。強いよ。病院から帰ってきてどうだったか聞いた時、必ず特に何もって言うけどちょっとつらそうな顔してるし、
今日だって結果待ちで入院って言ってたけど血液検査で引っかかったんだよね。僕は知ってたよ」
「え、」
バレていたんだ。絶対誰にもバレたくなった。特に天使には。
病気が悪化してる自分を見せたくなかった。
「なんで知ってるの?」
「聞いてたんだ。病院の先生との会話。」
まさか聞かれているとは思わなかった。
「だからさ、心乃ちゃんは誰にも言えないで辛そうだと思った。僕にできることあったら言ってね。」
「ありがと」
「怖いこと、不安なこと、嫌なこと、全部僕に言ってくれたらなにか役に立てるから」
こんなに安心感でいっぱいになったのは多分初めてだ。
< 3 / 8 >

この作品をシェア

pagetop